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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)865号 判決 1988年6月29日

控訴人

布施宇一

右訴訟代理人弁護士

菅野泰

清井礼司

鈴木俊美

被控訴人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

(復代理人)

富田美栄子

右訴訟代理人

小野澤峯藏

室伏仁

鈴木寛

矢野邦彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人と控訴人との間に期間の定めのない雇用関係が存在することを確認する。被控訴人は控訴人に対して、昭和五六年一月から、毎月二〇日限り、金二〇万九四〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(この送達時弁済期未到来の分については、各弁済期の翌日)から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに金員支払部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次の1、2を付加するほかは原判決事実摘示(原判決書中一五丁表三行目「行って」を「行った上、昭和五五年一月七日」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

1  被控訴人の地位についての当事者双方の一致した主張

被控訴人は、日本国有鉄道法に基づき設立された公共企業体であったが、原判決言渡後の昭和六二年四月一日、日本国有鉄道清算事業団法により、名称が「日本国有鉄道」から「日本国有鉄道清算事業団」に変更された。

2  当審における証拠関係

当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所もまた、被控訴人の本件免職処分に関する主張は正当であり、控訴人のこれを無効とする主張は採用することができないものと判断する。その理由は、次の二ないし八に掲げるほかは原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

二  まず第一に、請求原因事実(従前の雇用関係の内容)及び抗弁中本件免職処分の存在(何がその理由になっていたかを含む。)については当事者間に争いがないところ、(証拠略)によれば、被控訴人の就業規則第六六条は懲戒事由を定めたものであるところ、その第一六号まで各個の事由を列挙した上、続く第一七号において「その他著しく不都合な行いのあったとき」を懲戒事由として掲げていること、本件免職処分の理由・内容が「控訴人は、四・一五事件に際して動労千葉の執行委員として多数の組合員によるデモ隊を指揮し、局対策員が制止線を引くなどして、制止したにもかかわらず、制止線を突き破るなどしてあえて制止に応ぜず、ために職場秩序を著しく混乱させた。更に、いわゆる五五年春季闘争に参画し、(被控訴人の)業務に支障を生じさせた。これらは、右第一七号の事由に該当する。よって、日本国有鉄道法第三一条により免職する。」というものであること、以上の事実が明らかに認められ、この認定に反する証拠はない。

しかるところ、控訴人の主張は、要するに、四・一五事件と五五年春季闘争とを合わせてみても、控訴人に同法第三一条第一項に定める懲戒免職を相当とするほどの事由(以下単に「免職事由」という。)があったとはいえず、仮に免職事由があったものとしても、本件免職処分は、動労千葉の組合潰しを狙い、動労本部を不当に優遇し動労千葉を不当に不利に扱う政治的処分であって、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であり、あるいは裁量を誤り懲戒権を濫用したものであるから、違法かつ無効であるというものである。

三  しかしながら、四・一五事件(以下「本件事件」という。)については、証拠上やや明確でないところを可及的に控訴人に有利に認定解釈してみても、右に引用した原判決理由説示(原判決書二四丁表七行目から三三丁裏一一行目まで及び三七丁表二行目から三九丁裏二行目まで。ただし、三八丁裏九行目「、原告が」から同所一〇行目「反するが」を削り、三九丁表九行目「職員同志」を「職員同士」に改める。)の事実を認めることができ、当審証拠によってもこの認定は覆らない。

これを若干敷衍するに、控訴人が本件事件に際して指導的地位にあったことは、元来当日動労千葉は本件の津田沼電車区とともに千葉運転区においても春闘決起集会を開催する予定であって、当時同組合の執行委員でありかつ組織部長であった控訴人がその最高責任者として右集会を指揮することになっていたのであるが、同組合と敵対する動労本部の青年部が津田沼に大挙し動労千葉の運動を妨害するとの情報があったので、これに対抗するため(もともと動労千葉は、動労本部の千葉地方本部が動労本部の運動方針に反旗を翻し、この一年ほど前の昭和五四年三月に動労本部の承知なくして独立し結成されたものであり、以来両者は互いに相手を憎悪非難攻撃し、現実に大乱闘を演じるような仲であった。)、急きょ千葉運転区の集会を止め、津田沼の方だけで集会を開催することになったものであり、このため控訴人も本件の現場にわざわざ来たものであること(これらの点は、当事者間に争いがない。)に徴して既に明らかであり、かつ、本件事件の態様を見ても、要するに、動労千葉組合員側は四列縦隊で動労本部組合員側の方に五〇メートルも示威行進をし、被控訴人職員らが張っていた制止線まで結局全然止まろうとせずにそのまま進行し、必然の成行きとして動労本部組合員と乱闘するところとなったというものであり、もともと右進行をどこで止めるかということを全く決めておらず、被控訴人職員らが止まるよう勧告したのに控訴人も含めて誰一人右制止線の手前で止まるための実効性のある行為はしなかったというものである。そして、多数の一般利用者の身体・財産を預かる鉄道の現場でその職員同士が二、三百名で乱闘し、十数名の負傷者を出すなどということがゆゆしい事態であることは明らかであるところ、控訴人は、右縦隊の前から二、三人目の列外右側にあって、右示威行進を率先指揮して本件事件の直接の原因を作ったものというべきであるから、控訴人が本件事件について重大な責任を負うべきことは、更に論ずるまでもない。すなわち、本件事件につき、控訴人に免職事由があったことは明らかである。

四  そして、控訴人が従前原判決事実摘示六2(三)(判決書二二丁裏初行から二三丁表四行目まで)記載の処分及び処分通告を受けていたことについては、当事者間に争いがない。また、千葉鉄管理局長が昭和五四年一二月二九日局報号外(<証拠略>)で、暴力行為の絶滅について強く訴え、今後当局が暴力行為を現認した職員については、当該職員の所属いかんにかかわらず原則として免職処分にする旨警告していたこと、動労千葉もその執行委員である控訴人もこれに強く反発したが、その前提としてこの号外の存在及び内容を十分知っていたこと、以上については原判決理由説示のとおりである。

五  加えて、動労千葉が昭和五五年四月一三日、一五日及び一六日にいわゆる春季闘争を実施したこと並びに控訴人がこれに参加したことは、当事者間に争いがない。そして、原審における控訴人の本人供述及び弁論の全趣旨により、この五五年春季闘争に控訴人が動労千葉の執行委員兼組織部長として「参画」したというべきことは、明らかであり、この認定に反する証拠はない。また、同時期に、被控訴人の他の労働組合である国労及び動労本部もいわゆる春闘を実施し(既に明らかなとおり、本件事件はこの春闘中に発生したものである。)、かつ、右一五日には車両破損事故が偶発するなどの事情により、全部が動労千葉の責任というわけではないけれども、これらのいわゆる春闘により被控訴人の列車運行業務に重大な支障が生じたことも、(証拠略)及び弁論の全趣旨により明らかであり、この認定に反する証拠はない。

六  右により本件について検討するに、そもそも控訴人には本件事件のみでも十分な免職事由があったといわざるを得ず、被控訴人がこれだけを理由にして本件免職処分を発令したとしても何ら不当でなく、これが懲戒権ないし解雇権を行使するに当たり合理的な裁量を逸脱したものであるとは到底認められない。

そして、前示のとおり、控訴人が五五年春季闘争に参画したことも確かであるから、被控訴人が事実を誤認して本件免職処分を発令したということも認められない。

七  かくして、控訴人には、日本国有鉄道法及びこれを受けた被控訴人の就業規則であらかじめ定められていた懲戒事由に単に形式的に該当する事由があったというにとどまらず、その内容自体からして懲戒免職されてもやむを得ないような実質的に重大な非違行為があったものであり、このことは動かし難いところである。もっとも、原審における(人証略)、前掲控訴人の本人供述並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件免職処分当時動労千葉を好ましくない労働組合と見ていたことが容易に窺えるけれども、その他の証拠を加えて検討してみても、被控訴人において、意図的に、動労千葉を壊滅ないし弱体化させようとして、その執行委員たる控訴人に対しあえて本件懲戒免職処分をしたものであるとまで認めることは、到底不可能である。よって、本件免職処分が不当労働行為であるとの控訴人の主張は採用できない。

八  最後に、控訴人は、特に本件事件における吉岡正明の責任とを比較して、同人が停職処分(停職一二月)であるのに対し控訴人が免職であるというのは不合理であるとか、元来本件事件は動労千葉組合員を二人も免職しうるほどの非違行為ではない(ゆえに控訴人一人しか免職されていない。)から、当日の最高責任者である右吉岡でなく控訴人の方を免職したのは、被控訴人に事実誤認があったか裁量を誤ったからにほかならないなどと主張する。

しかしながら、前示のとおり、本件事件に際しての控訴人の立場ないし役割につき被控訴人には事実誤認がなく、かつ、控訴人には免職事由があり本件免職処分は相当であると十分に認められ、他方、右吉岡の処分との間に著しく均衡を失し、それゆえに本件免職処分を違法・無効としなければならないほどの特別の具体的事情は、本件の証拠上全く認めることができない。停職と免職とでは質を異にすることは確かであるが、吉岡の受けた一二月という長期の停職処分も極めて重い処分であることが明らかであるから、処分の内容それ自体から直ちに著しく均衡を失するものということはできないのみならず、そもそも、本件事件における吉岡と控訴人の行動が細部にわたり全部明確に認識できたからといって、吉岡と控訴人のどちらの責任が重いかを機械的に計算できるわけではなく、その性質上当然に被控訴人の裁量・評価が入り込まざるを得ない(その判定が恣意的であることが許されないことは、もちろんである。)ところである。そして、これを事後的に審査する裁判所が右判定を誤りとするには、明らかに吉岡の責任の方が重いか、又は控訴人の方が重いことはおよそあり得ないとか、両名の責任に特段の軽重がなくても、被控訴人において殊更に控訴人を吉岡よりも不利に、あるいは吉岡を控訴人よりも有利にしたという控訴人に対する害意ないし差別的意図があったとかの事情が認められなければならないところ、かかる具体的事情を認めるべき証拠はない。

要するに、控訴人の右主張は採用の限りでない。

九  以上の次第であって、本件免職処分は有効であるから、これが無効であることを前提とする控訴人の請求はその余の点について論ずるまでもなく失当であり、棄却を免れない。よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないことになるので、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条に従い、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 裁判官 伊藤剛)

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